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フッ素は安全なのか?

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フッ化物が虫歯予防に効果があるという事は広く知られています。
歯科におけるフッ化物の応用は有益な方法として、WHO(世界保健機関)やFDI(国際歯科連盟)をはじめ世界で150以上にも及ぶ保健医療関連機関などによって科学的に証明され、勧告または推奨されています。
しかし今なお「フッ素は危険」「フッ素は毒である」という根強い反対論もあり、日々の診療においてフッ素を使用したくないと仰る患者様もいらっしゃいます。
根強い反フッ素の論調の裏にはいくつかの誤解があると思われます。

<フッ素自体に対する誤解>

まず必ずおさえておきたいことは「フッ素」と「フッ化物」は全く別物だと言う事です。
虫歯予防に使うのはフッ化物でありフッ素ではありません。

ざっくり言うとフッ素は1人で存在しているときの名前、フッ化物は他の誰かとくっついた時の名前です。
実はフッ素は1人でいる時は安定しないため、反応性が高く毒性も高いです。
ただ、フッ化物の状態であれば非常に安定しており、ナトリウムとフッ素がくっついた「フッ化ナトリウム」という状態では、虫歯予防に対して非常に効果的であり、市販の歯磨き粉にも良く配合されている成分です。
またフッ化物は土壌、水、食品など自然界にもあまねく存在しています。

しかし残念ながらこのフッ素が1人でいる時の印象を強く持っている方や一部ネットの偏った情報を信じている方・団体にとっては「フッ素は危険だ!」となってしまうのでしょう。
また歯科で用いるフッ化物を「フッ化水素酸(フッ酸)」と誤解されている方もいます。
フッ化水素酸(フッ酸)は有毒性の強いもので、歯科で歯に塗ることは禁忌でありまずあり得ません。
また歯科で用いるフッ化物は「無機フッ素化合物」でありフライパンのフッ素加工で用いる「有機フッ素化合物」とも異なります。

<「量」に対する誤解>

体に良いものでも採れば採るほど効果が上がるものはなく、とり過ぎるとむしろ悪い面が出てくることは良くあります。
例えば塩でも体に良いサプリメントでも、とり過ぎると害になることがありますね。
当然フッ化物も摂り過ぎれば害があります。
そのため、1日当たりのフッ化物摂取の上限量が定められており、この量が一つの目安になっています。

例えば1000ppmのフッ化物配合歯磨剤には、1g中に1mgのフッ化物が含まれています。
成人の上限量である1日辺り10mgに達するためには、10回フッ化物配合歯磨剤を全部飲み込んでやっと達する程度です。

また、急性中毒としては1kgあたり2mgのフッ化物を摂取した場合に発生するとされています。
体重60kgの方であれば、フッ化物を120mg摂取した場合に発生するという事です。
つまり、フッ化物配合歯磨剤のチューブを2本くらい一気飲みすると急性中毒が発生するという事です。
したがって、成人ではフッ化物の害が生じる危険性は極めて低いと言えます。

ただ、子供ではフッ化物を過剰に摂取することによって急性中毒の他にも歯の見た目に影響(歯のフッ素症など)が発生するリスクがあります。
そのため、年齢に応じた適切なフッ化物配合歯磨剤の使用方法を含め、定期的に歯科医院でチェックや指導を受ける必要があります。

2023年1月より、フッ化物配合歯磨剤の利用方法が変更となりました(以下参照)(表は日本小児歯科学会HPより引用)

大きな変更点としては


1. 歯が生えてから2歳までは500ppmとされていたものが、1000ppmまでとなった

2. 3~5歳は500ppmとされていたものが、1000ppmまでとなった

3. 6~14歳の区分は削除され、6歳以上は成人・高齢者と同様に1500ppmとし、使用量は歯ブラシ全体(1.5~2cm程度)となった点です。


今まで日本は世界の基準と比べてフッ化物濃度が低い傾向にありましたが徐々に近づいてきています。年齢に応じた適切なフッ化物配合歯磨剤の使用方法を確認して安全に使用していきましょう。

ただしフッ化物は必ず虫歯を0にできる魔法の方法ではありません。
なぜなら、虫歯は様々な要因が関わりあって発生する病気であり、生活習慣・生活背景・食生活・唾液の量や力・虫歯菌の量・虫歯治療履歴・フッ化物の使用有無など多くのリスク因子が重なり合って発生します。

よって虫歯予防を考える上で各々に合った方法を選択する事がとても大切であり、フッ化物を必ず使用しなければならないわけではありません。選択は個々の自由です。
ただしこのような複数の要因が関わりあっている中で、フッ化物を有効に使うことで虫歯リスクを大きく下げられることは科学的に証明されておりとてもメリットのある方法です。

一歯科医師の立場として、フッ化物に対する誤解がなくなり、虫歯予防に対するメリットを最大限活かすことで、誰もが虫歯で悩まない健康的で幸せな人生をおくることのお手伝いをさせていただきたいと考えています。